図書館で借りて読了。テロリスト、右翼、政治家、ヤクザから格闘家、ボクサー、キックボクサー、歌手、芸人にテレビマン、などなどなどなど戦前戦後の裏面史、格闘技史、芸能史を曼荼羅のごとく書いた大著。何せ児玉誉士夫からビートたけし(「左だろ」の下りはさすがの格好良さ。記憶力凄ぇ。頭の良さが分かる)・たこ八郎まで出てくると言えばその登場人物の多彩さは伺えるのでは。
 戦前戦後だからある意味当然ではあるが、単なる文化史に収まらず、政治テロや児玉期間、戦後のアジア諸国との関係など「表」の話題とも複雑に絡み合うから、またそれで一味加わるわけですよ。
 それが、野口修というほとんどの人は名前すら聞いたことがない人物の栄枯盛衰が軸となっているのがさらにもう一押し。
 しばらく前に出たこれまた名著『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』とテーマからしてどうしても比べたくなるが、甲乙つけがたい。著者の姿勢がこちらの方がずっと冷静で文体も簡潔なのが対照的なのはちょっと面白い。
 2段組みで500ページを超えるボリュームながら、あまりに面白くて一気に読んでしまった。文献調査だけでなく、関係者へのインタヴューなども大量にあり、資料的価値も非常に高い。後は沢村忠のインタヴューさえあればと誰しも思うはずだが、wikipediaによると今年の4月に亡くなってしまったようだ。残念ながらその願いは永遠にかなわなくなってしまった。
 さすが水道橋博士案件という出色の出来。読むべし。
 余談。貴重な情報が数多く書かれている本書だが、そこから小ネタを一つ。とっくに権威の欠片すら残っていなくてニュースバリューはそれほどでもないが、レコード大賞の審査員へのワイロがあったというのは(pp.463-464)本当のようです。