図書館で借りて読了。こちらは割とストレートな自叙伝かな。ただし、マンガ家人生のスタートから『風と木の詩』までが大部分で、幼少時代はゼロ、『風と~』以降も少しだけという内容なので、完全な自伝というわけではない。
 大泉サロンを中心とした青春時代がほとばしるエネルギーと若さでとんでもなく魅力的だ。時代的にも文化全体が「熱い」時代というのもあるのだろう。その幸福なサロンの終わりへと至る自身の苦悩も、少なくとも本書を読む限り誠実に書いているふうに感じられた。萩尾さんが天才型なら竹宮さんは秀才型と吉田豪さんが言っていたが、自己の作品や当時の状況への分析ぶりからするに確かにこれは的確な表現だと思った。萩尾さんの告白と比べても文章が整理されている感が強い。編集者が割とフォーカスされていて、かつ竹宮さんも編集者にブレイン的な役割をもとめているのが非常に対照的な点の一つとして印象深い。
 萩尾さんのストレスに負けず劣らず、当時の精神状態は読んでいてもこっちまで辛くなる書きぶりからするに、ごく身近に天才がいることでスランプ的な状態がさらに悪化していくのを解消するには、サロン解散的な措置はやむを得なかったのだろう。どういう別れの切り出し方をしたかは全く書いてないが、果たしてどうだったんだろうか。
 それとキーマンである増山さん。後年創作をそれなりにして、竹宮さんとは最後まで友好関係を維持したのだからからまだ救い(?)があるけど、はたから見たら相当痛いオタクな気が……。そりゃ編集者も困惑しますよ。増山さんもあまりに絶妙なタイミングで亡くなったのがこれまた劇的ですな。
 萩尾本とセットで、単なるマンガ家の自伝以上のある種の悲劇(?)として稀有な存在と言って良いのでは。竹宮さんが死ぬ前に萩尾本への感想を聞いてみたいと思うのはゲスす過ぎますかね。
 余談。当時少女マンガ誌を皇居に納めていた(p.116)という証言が出てくる。どこかで私も聞いたことがあったが、本当なのだろうか。