- 作者: スティーブン・ピンカー,幾島幸子,塩原通緒
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2015/01/28
- メディア: 単行本
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- 出版社/メーカー: 青土社
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私のような中途半端な亜インテリは、現代は過去に比べて恐ろしい時代で、人間は進歩なんかしないと思いがちだが、「理性と啓蒙主義」が人類から暴力を奪い、現代は過去に比べて非常に平和だというのを、豊富な具体例と統計データで示してくれている。
紹介されているエピソードや心理学をはじめとする経験科学の成果も興味深いものばかり。気になったものだけでも、割れ窓理論の正しそうなこと、イスラム世界の(先進国と比較しての)暴力度、読書が持つ効果(他者の視点獲得による道徳度アップ)、ポワソン分布の解説、暴力的な奴は自尊心低いんじゃなく高すぎ、等々。
民主主義とコスモポリタニズム、自由貿易への最強の賛歌にもなっていますな。
最近全世界的に退潮気味の人文科学擁護として、読書の効能って使えそうだし、難しい擁護が一般に浸透することの効果(ショートハンドアブストラクション)もかなり使えるんじゃないでしょうか。
あえてこれがあればなおよかったのにと言うのは、詳細な解説ですかね。分かりにくい点の解説、事実誤認や疑問が呈されている箇所の指摘があればな読者としては助かったのだ。ただ、本書の射程範囲の壮大さを考えると、それはそれで大仕事だし、ピンカーを楽しんで読む人なら自分でそんなもんある程度調べるだろういう気もするけどね。
というわけで、必読レベルの素晴らしさ。絶対読みましょう。
余談。一人の社会人としては著者の立場は妥当過ぎるのだが、どうしても「血と大地」的メンタリティというか、ロマン主義に魅かれる部分も私の中には確実にある。
その原因は、単なる人間の野蛮な面というのでなく、今現にここから世界が開けているこの私という特異点を重視することと、自分と他人の交換可能性や長期的な利益の計算というのが相性が良くないことからきてるのかなぁと。どうしてもそういうニーチェ的メンタリティが核にあると、本書で展開された「大人の哲学」に完全に乗り切れないというか。
だからと言って、そこを非合理主義や宗教で埋め合わせるのは、それはそれで知性の敗北なのも間違いないわけで。哲学に存在意義があるとすれば、そういうことを考える学問としてなんじゃないかな〜と、漠然と思ったのでした。