図書館で借りて読了。「学生食堂で飯を食べる人間にプルーストが分かるか?」という発言の紹介から始まって、貧乏人には非常に嫌味な本。各都市のオーケストラや劇場といった音楽事情だけでなく、レストランやホテルまで、内容は豊富。
 著者の問いで、ある貧乏人に(ある種の)芸術が理解できるかというのは、「クソブルジュア死ね」という感情的反発を除けば、考えるに値する問いだ。一方で、まともな美的感性さえあれば誰でも優れた芸術に感動できるだろうと思う反面、バックグラウンドがないと理解できない美というのは確かに存在しそうな気がするのも事実だ。
 だが、金持ちしか理解できない美があるのだったら、逆に貧乏人にしか理解できない過剰な贅沢さがかもし出す美しさというのもある、と言えはしないのだろうか
 単なる「趣味は人それぞれ」という陳腐な相対主義に陥らないで、筆者の言うことを正当化するのはなかなか大変そうだ。
 それはともかく、エッセイとしては質は高いし、最初に宣言している通り、筆者のエゴがかなり強く出ている(ラトルのマーラーに涙してベルリンに毎週通うところだとか)のは読んでいて楽しかった。
 願わくば、(前にも書いたけど)どういう家庭に生まれて何でそんなに贅沢できるのか、どうやって慶応の教授になれたのかなど(専門がイマイチ分からん。評論家として知名度はあるかもしんないけど、本業でそんなに業績ある人なの?なんかコネあんの?)、そういう下世話な形而下の話も今後いつかはしてほしいものだ。