ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

 新刊で購入。ハードカバーでは一度読んでいたが、中身が素晴らしかったので文庫で買って再読。
 木田さんは一貫してハイデガーを崇め奉らずに、クールに読解して認めるべき点は認めるというスタンスをずっと取ってきているけど、これは偉いね。特に言っている中身等から、ハイデガーみたいなタイプはそういう風になりがちだから、なおさら立派です。
 著作と違って、講義録は噛んで含めるような丁寧さがあるということらしんだけど、もちろん素人にはそれでも難しいわけで、こうやって解説されて、ハイデガーなるほど凄いなとやっと分かるというのが私みたいな多くの素人の感想かと。
 特に第3講で、ハイデガーの洞察からカント・デカルトのテクストを解釈しなおすところは、蒙を啓かれました。たまたまデカルトの第3省察を読み直す機会があったんだけど(我ながらそんなもんがあるのは不思議だが)、そこで出てくる「表象的実在性」(ちくま学芸文庫の訳)って、木田さんが(ハイデガー講義録から示唆されて)指摘するように「表象された事象内容」って読まないと理解不能です。善意に解釈すると、訳す人は専門家だからそんなことは当然分かっていてそれが当たり前すぎていて、ついついサラっと字面通り訳してしまったということかもしれないけど、実際はどうなんでしょう。今までいかに自分が適当にテクスト読んでたかまた反省しました。
 あと、ハイデガー全集の翻訳の残念さ加減も容赦なく批判しているけど、どうにもならないのかね〜。もったいないよ。質が良くない翻訳しかないというのは、特に私のような素人や、若いこれからハイデガーを読んでみたいという人には致命的だし、哲学業界にとっても潜在的な読者を逃してしまって、テメーの存続に後々響くんじゃないかなぁ。
 とにかく、ハイデガーに興味がある人だけでなく、哲学に興味がある人は非常に面白く読めるでしょう。これだけ面白いのに連載10回で終わってしまうなんて残念すぎますなー。木田さんの年齢を考えるとちょっと難しいだろうから、だれか他の人が同じようなことしてほしいね。