図書館で借りて読了。

 近年注目をされることが多いインドのフィールドワーク的観察記録。

 改善されているとはいえ、それでもカースト制度のおぞましさと名誉殺人というこれまた非道な習慣から始まって、なかなかしんどい話が冒頭にあるが、その後はそこまで辛くない、かな。

 興味深いが満載で、ボリュームも手ごろで一気に読んでしまった。インドの社会事情読み物として、そしてまだまだ残る深刻な差別などの理不尽への抵抗のヒントがある。

ある時、ストリート演劇の手法で人権問題を伝える活動をしていたところ、主人公のダリト女性が最も虐げられ涙を流すシーンで観客のダリトたちは大笑いしたのだという。ラージたちはそれを見てショックを受けた。本来は同情し共感する場面で、ざまあみろと笑ったのだ。その時、彼らはダリトの感情を回復することが、社会経済的な状況を向上させることと同じか、あるいはそれ以上に大事なことだと悟ったという。(p.204)

 この引用が示すような残酷な現実には、王道かつ大事な社会運動に加えて、人文的な知恵や教養がきっと力になれる場面があるはずだ(まさにヌスバウム路線)。

 自身を世に警句をならす資格がある知識人と認識するなら、しょうもないアイデンティティポリティックス遊びにうつつを抜かさず、正面から本書のようなま、まごうことなき「悪」へと対峙して欲しいものだ。