25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

 新刊で購入。傑作、いや大傑作だなこれは。『虫と歌』も素晴らしかったが、この読後感は近年感じることがないほどのものだ。今年のナンバーワンはもちろん、ここ十年でも最高の作品のひとつと断言できる。
 美しい明暗のコントラストが、シンプルで平面的な絵を単調に感じさせない。醜怪なシーン(「25時のバカンス」の顔を開くシーン、「パンドラにて」の宇宙に漂う死体、「月の葬式」の穴の開いた体)には、生理的に強い恐怖感・嫌悪感を覚えたが、その凄まじい威力は、芸術的な戦慄を同時に与える。
 構成といい演出といい、これが2冊目の単行本とは思えないほどうまい。例えば、「月の葬式」の最後月の隕石が振る場面の、なんと荘厳で美しいことか。
 ぱっと見からは想像できないほど、3作ともインモラルなエロスが溢れていて、このセクシャリティへの姿勢は明らかに少女マンガの系譜の最先端として位置づけられる気がするが、マンガ史的な本作の場所は、私の手には負えないので専門家に任せよう。
 とにかく、同時代にこれほどの作品が読めて興奮がおさまらない。マンガ好きならば読むのは義務。そうでなくとも、現代日本マンガの最高レベルを味わうために是非読んで欲しい。
 市川春子は、本作をもって日本の現役のマンガ家の中で最重要作家となった。次の作品が待ち遠しくてたまらない。