語りえぬものを語る

語りえぬものを語る

 待望の新刊。連載が終わったらてっきり新書にでもまとめられるのかと思っていたら、大幅に加筆されて出版されて驚いた。
 内容は多岐に渡る。丁寧に解説してあるので、予備知識無しでも読めないことはないと思うが、分析哲学の話題にある程度慣れてから読んだほうがよさそう。
 昔からどうしても納得できないのは、感覚日記の話。「E」って日記はどう考えたって普通にありえるでしょう。正しいことと正しいと思っていることの区別が「E」にはないってのがそもそも違うんでは。その判断は記憶に当然基づいてしているわけだが、「E」みたいな私的感覚だけでなく、モノの名前や色の名前、痛みなど全て判断は記憶に基づいていることに違いはない。「E」の場合、単に私1人しかそれに対して記憶を持っていないけれども、モノや名前はそうではないってのは、程度問題でしょ。大体記憶は、細かい間違いはあっても総体としてみれば大体正しいというのは、それこそ世界像命題なんでないの。
 それを疑うんであれば、私的だろうが公的だろうが、何らかの認識対象の同一性に対する非常に強い懐疑論を招くほかなくなってしまうことにならないのかなぁ。
 この他の話題も、語り口は柔らかいけれども内容は相当高度で難しく、議論の種になりそうなトピックが盛りだくさん。素人から玄人まで読み応え十分です。哲学好きは必読でしょう。