皺 (ShoPro Books)

皺 (ShoPro Books)

 評判が良いので新刊で購入。表題作の「皺」は、認知症の元銀行員が老人ホームに入る話。何とも華のない舞台設定だ。しかし、理性を失った・失っていく老人達の物悲しさの中に、ほんの少しの瞬間だけ最後に射した(認識の)光、そして全てが薄命の中に消えていくラストは、とても美しい。
 金にがめつい独り者のジジイの見せる友情や気遣いもイイ。もう1つの収録作「灯台」も、これまたイイジジイが出てくる。こちらも出来は良い。
 続々と出版される海外コミックは、ある意味当たり前だが粒揃い。本書もその粒の1つであることは間違いない。
 以下余談。ほんの少しずつではあるが、薄くなる頭髪や、脂っこいものを食べるのがつらくなってきたことなど、老いを感じざるを得ない年齢になってきたことを感じる頻度が増えてきた。そんな中、ふと自分より10歳以上年を取った同僚の顔を見て、なぜかしばらくして彼が老人になったときの顔がありありと想像された。彼の幼いときの顔を思い描くことは、年老いたときの顔を想像するより数段難しいにちがいない。恐らくは他人から見ても、私も同じように思える風貌をしているはずだということを自覚した瞬間、突如として「老い」がより一層強く迫ってくる思いがした。
 そんな感情を抱いた中で読んだことによって、より一層本書の読後感は感慨深くなった。