図書館で借りて読了。私は「大泉サロン」って言葉も良く知らなかったくらいだが、それでも滅茶苦茶面白く読めた。もちろんそれは下世話なゴシップを楽しむような気持ちもあるが、才能ある者同士の邂逅と離別という人間ドラマとして非常に劇的だから。インタヴューをもとにしているからか、肉声が伝わってくるような迫真のテキストなのも本書の魅力かと。
 いくつかの誤解や人間的な弱さやそれぞれの若さ、ちょっとした行き違いでこういった深刻な人間関係の破綻が起きるなんて、よくある話ではあるけど、悲しいものでもあるし、大分時間が経って周囲が和解を勧めるのも人情としてよく分かるからなぁ。
 しかも多くの人間にとって非常な熱量を持った幸福な青春時代だったのも事実なわけで、そうするとなおさら和解できればと思うのも自然だろう。お二人ともまだ元気だとは言え、年齢的に死を考える時期だとすると、まだ自分で行動できるうちに和解まではいかなくても、最後にわだかまりを緩和して死にたいと考える道もあっただろうが(竹宮さんはそう考えた?)、少なくとも萩尾さんには全くそれが不可能なことが明白だ。それもまた一つの道だろう。
 読めばすぐ分かる通り、萩尾さんはある意味愚直と言うか不器用と言うか面倒くさいというか、とにかくまあ世間の一般的な大人としてやり過ごすということが苦手らしく、そうなるともうある意味こうなるのは必然的としか言えないよなと。竹宮さんへの態度なんてここまで徹底するかという尋常でないものなのがその一番の証拠だろう。本書が出る前は周りの人は2人の関係どう思ってたのかね?一時は一緒に住むくらいの関係だったのに、明らかにお互い避けるような感じで不自然なわけじゃん。そうなるとあることないこと噂話が流通するのは自明の理。
 あとは、萩尾さんは少女マンガ家としては割とメディアに出たりする方だから、(むろん作家だからある程度やっかいなのは当然として)世間人としてもそれなりに振る舞える人だと思い込んでいたのが、かなり偏りのあるイメージなのが分かった。さらに少年愛趣味が全くないというのも初認識。やはり私の眼は節穴だ。
 中心となる大泉の話題だけでなく、生まれてから現在までの回顧という内容も豊富なので、マンガ史の資料としても第一級の本として今後も参照されていくだろう。竹宮さん側の本も読んだ方が良いのかな。