新刊で購入。随分読むのに時間がかかってしまった。いやいや素晴らしい。分析哲学的スタイルで明晰判明を範とした記述・論証は、古くは実存哲学寄り、さらに時代を下ってポストモダン系の入門書・解説書が大半のニーチェ哲学関連文献ばかり読んできた人間には非常に新鮮に感じた。「自然主義者としてのニーチェ」という路線は大筋では正しいと思う。
 目についた箇所だと、「ニーチェは私たちの禁欲主義的な道徳を単なる一自然現象と見なすことによって、この道徳を、神的な戒めや事物の永遠で不変の秩序の領域から引きずり下ろすのである。」(p.406)、「科学的心理の認識的地位に対して向けられる懐疑というものは全く見受けられない。それゆえ、近年見られるアナクロニスティックな読解はニーチェの内にポストモダン的な懐疑主義が見出せると主張しているが、そのようなものはここには一切ないのだ。」(pp.378-379 )

 てなところが分かりやすい。 

 しかし、ニーチェの哲学の根本にはやはりハイデガー的なニーチェ解釈路線がいうような形而上学的要素(「存在」の肯定は、いわば存在への驚きとほぼ同義だと思う)があるだろうという解釈をとる私には、そこを汲んでくれないのは不満。
 あとは、永井均田島正樹ニーチェ本的な、解説でありかついわば「ニーチェを出汁にした」ようなそれ自体哲学的に興味深い独自性みたいなものは(ハイデガーポストモダン系もある意味これなのかな。ハイデガーはともかくポストモダン系は全然駄目だろうけど)、本書には見受けられない。まあ良くも悪くも「正統的」なのかな。

 行き届いた訳者解説と文献案内もありがたい。近年は英語圏ニーチェ研究が盛んだとは全然知らんかった。
 ニーチェ(哲学)に興味がある人は本書は必読でしょう。