図書館で借りて読了。

 子どもたちをのびのび自由に、個性を大事に、といった戦後民主主義的、進歩派的な教育の良い部分が、恐らくは子供も読むことを意識した簡潔、しかし生き生きとして情感を呼び起こす文章で書かれている。長く読み継がれる良い絵本と近いかな。

 書かれた経緯や後書きを読むに、1人の優れた教育者がもたらす影響の大きさというのは侮れないと言わざるをえない。卒業生たちがその後も長く生涯の友人として交流し続けるのもよく分かる。

 映画版が原作に非常に忠実なものなのもよく分かった。映画版の中心である泰明ちゃんの下りのほかに、ロッキーとの別れや茶話会なども涙なしには読めない。

 これを口述筆記や事実上のゴーストライターなどでなく、黒柳さん本人が書いたとしたら相当な知性と文章力だ。ベストセラーにもなりますよ。

 『片隅』のように、映画版とセットで長く長く愛される作品として、今後も読み継がれていくだろうし、その価値は十分ある。大人も子供もあらゆる層に届く内容。映画版を「子供を連れて家族連れで行って欲しい」という町山さんのアドバイスはそういう意味で的確かと。

 若くて知的(だと自認しているような奴)だと、ついついこういうベストセラーかつ幾分「偽善的な」匂いを感じる本は敬遠しがちだが、むしろそういう人ほど、黒柳さんは単なる変わった髪型のオモシロおばさんじゃないんだよ(私も以前はそう思ってました。スイマセン)、相当な知性の持ち主で戦後の大衆文化史に残るような人なんだよということ知ってもらう意味でも読んで欲しい。

 映画版を今アニメで作ることをしたことや続編を最近出版されたことからも、自分に残された時間を明らかに考えていることからも、侮れない見識を持っていることは推察できるかと。