図書館で借りて読了。

 これは滅茶苦茶面白い。西浦さんの率直で飾らない人柄と専門家の矜持が、聞き書きと言うこともあって非常に読みやすい形で伝わってくる。かつ、ある種のドキュメンタリー・内幕ものとしても比類ない面白さ。

 8割減がいつの間にか7割減に書き換えられていたり、勝手に文書を細工されたり、時には直接恫喝めいたことしてきたりと、官僚機構の姑息なやり口にはうんざりさせられる。また政治家の無責任ぶりも無念をにじませながらはっきりと書いてあって、ため息しか出ない。

 西浦さんも、尾身さんに会見で補償のこと言ったらどうかと提案したんだそうで。でもそれは政治の領分だということで尾身さんは承諾しなかったそうな。それ自体は賢明な判断だと思うけど、そういうことを知らないで西浦さんや尾身さんを批判したり、ましてや揶揄したり脅迫したりする連中は本当に恥知らずだから100万回反省した方が良いよ。

 その裏では尾身さんがアベノマスクに出てきたときに西村大臣にガチ切れしてしていた(p.213)り、専門家の集まりで感動的な啖呵を切ったり(p.228。これは泣ける)と、人間ドラマも読みごたえたっぷり。

  尾身さんが医療関係者に深く尊敬されているのは、単なる公衆衛生の専門家としての力量だけでなく、こういう人間的な器量の大きさも多分にあるんだろうね。

 あ、西浦さん自身もちゃんと書いてるけど、いくら優れた専門家と言えども神様ではなく、至らない点があったこともちゃんと反省しているからね。尾身さんも聖人じゃない一人の人間である側面にも触れられてます。そういう科学者的フェアネスが西浦さんの物言いにあるから、記述内容の信頼性も高いんだろうとこっちも思えるわけです。

 最後の方では、感染症に限ったことでなく、政治と科学の関係という視点まで含めた価値ある提言を専門家たちがしてくれているのに、政治や行政はそれをまさに今現在生かすよう動いてくれているのだろうか……。

 まあとにかくためになってかつ面白いという稀有な本です。読むべし。