キンドルで購入。素晴らしい。
 行動経済学を中心に自然科学を参照しつつ、個人の努力や徳ではなく外部環境や集合知を重視する広い意味での「外在主義的」「自然主義的」理性擁護は、全く持って真っ当でまともだ。今だと反ワクチンに典型的な非合理主義が跋扈する理由や歴史的背景も的確にまとめられている。著者が哲学者だからか、特に共産主義ポストモダンからの反合理主義のまとめはとてもしっくりきた。
 カナダってリベラルで比較的穏健な「上手くいっている」国だと思っていたが、やはりそちらはそちらで厄介ごとが多いようだ。隣の芝は青く見えて、ユートピアは文字通りどこにもないということでしょう。
 最近話題になった行動経済学や心理学の再現性が怪しいのでは的な留保も必要かもしれないが、論旨には影響がないだろう。なにより、直観と感情に過度に支配されることなく、適度で健全な懐疑と反証に開かれた科学を範としたリベラリズムでは、科学的知見が更新されることはある意味織り込み済みなのだから。
 トランプ以前に書かれた本だが、全く古びていないどころか今こそ読まれるべき本。ピンカーといいヒースといい、昔ならひげ面の思想家が担っていた役割を、より明晰判明に一般大衆へと語ってくれるのは非常に貴重で喜ばしいことだ。これぞ知識人の役割だと思う。我が国にもそういった人が現れてくれないだろうか……。