新刊で購入。前半の普通(?)の哲学と後半の文学の接続のしかたが文章の上手さもあって見事だった。個人的にも自然主義でなく多元主義の方が魅力を感じるし、自由や責任は(おそらく根本的には〈私〉的、ヨコ問題として)自然主義的な解明は無理だと確信しているので、シンパシーを持った。
 また本書で触れられる小説などろくに親しんでこなかったが、あまりに明晰判明な明治文学史の分析は読んでいて気持ちが良かった。これだけ分かりやすすぎると本職の文学者や評論家もかたなしなのでは。感想が聞いてみたい。
 ですます調でこれだけ読ませる文章を書くのは相当大変だろう。著者の手腕が光る。
 ただ、どうしても後半の小説部分は哲学っぽくないという偏見が捨てきれない。日常言語学派的な分析も、そればっかりに拘泥しすぎると何だかなというのと同じかもしれない。もちろん「現に今どうなっているか」を記述するのは、哲学に限らず必要なことなのは間違いない。しかしそれを「解明」する方にどうしてもインセティンブを置きたくなってしまう(これもウィトゲンシュタイン的哲学的病気?)。
 これだけ良い本書きながら「どれだけ業績を積んでも大学に常勤教員として採用されない―世界が私を拒んでいるかのような心地です」(p.215)というんだから、理不尽なものだ。それでも本書には、絶望でもなく狂信でもなくアイロニーを生きるかのような爽やかさがあってそれも大したものだと思う。同世代としてますます応援したくなった。