キンドルで購入。
 近年のポストモダンを源流とした応用ポストモダン=「社会正義」の非常に良くまとまった概観と批判。出典も明記されてしっかりしているし、著者の姿勢も古典的リベラリズムにのっとった真っ当なもので信頼できる。アメリカのお国事情的な要素(ファットスタディーズなんて肥満体国アメリカならでは感が強い)もありつつ、日本の一部過激なフェミニスト界隈や活動家連中の背景もかなりの程度当てはまる図式なのでは。
 高い本だけど、ソーカル本よりもある意味一層テーマ的に一般向けと言えるかもしれない。読むのが大変なら訳者解説だけでも趣旨はつかめます。
 その解説でつい最近ひと悶着あったようだ。山形さんの訳者解説が不可解な理由で出版社のサイトから削除されてちょっとした炎上騒ぎになっていた。私自身は内容的に何の問題も感じなかったし、まともな人はツイッターで観測した限りおおむね同じ感想を持っているようだ。批判側が何に対して文句を言っているのか分からないで不可解極まりない。どうも元の本にはない部分らしいのだが、それもたとえ事実誤認や間違いがあったとしても、その部分だけ謝罪して削るなり注記を付けるなりすれば良いだけにしか思えない。どうもキャンセル側は、一体何が問題か細かく論じようとせず、糾弾と恫喝でレッテル張りして正義を振りかざす自己満足としか思えないし、どんな話題でもそういう傾向あるような気がする。
 そうではなく、そもそも本書の主張(=解説の内容)自体が間違っていると批判しているとすると、そうならそうと言えばいいだけで削除させる理由には全くならない。少なくとも私が読んだ限り内容自体全く穏当なもので、内容自体の当否を論じる過程で批判はあり得ても、主張自体をなかったことにする悪質な差別やデマを含むものでは全くない。
 「キャンセルカルチャー」の実例が本邦でまた一つ増えただけだろう。言論の自由の敵をこれ以上のさばらせてはいけない。いや、それだけじゃなくて、それこそ肥満研究や障害研究(の本書で批判されているダメなもの)は健康や生命に重大な支障を与えかねないのだから、単なるヨタと放置しておくと大変なことになる。