新版 タイムトラベルの哲学 (ちくま文庫)

新版 タイムトラベルの哲学 (ちくま文庫)

  旧版が出たとき、まだ若者だった私は、20代の学生が本を書いたことに感嘆・羨望・嫉妬を強く感じたものだ。そんな思いでもあり、増補と永井さんの解説も追加されているということで購入。
 改めて読み直してみて、もう脱帽するしかありませんというのが感想。旧版を読んだときは、アキレスと亀の話はそんなに印象に残らなかったが、いやいやどうして、これ凄い。他のパラドクス(飛ぶ矢のパラドクスなど)とアキレスと亀のパラドクスって、どこが違うのか今までピンと来なかったのだけれど、これを読んで、そこに固有の哲学的問題が多少なりとも理解できた気がする。少なくとも、アキレスと亀に関して書かれたものの中では、間違いなく最高レベルの素晴らしさだと思う。これを20代の学生が書いていたとは・・・。恐るべき才能と言うほかない。
 その他の部分も、予備知識は一切前提としないが、水準は高い。今回増補として付いたものは、他の部分よりも学術論文っぽい感じで、中身も難しくて一読しただけでは十分理解できなかったが、色々論点が出ていて読み応え十分。
 タイムトラベルについて書かれた本って、時間論の一部として登場することはあっても、メインで取り上げられたものとなると、実は哲学関係ではそんなに多くないんだと思う(英語のものも含めて。論文はたくさんあるけど)。そういう意味でも貴重な本でしょう。哲学ファンならもちろん読むべきだと思うけれど、SF好きもきっと読めば面白いのではないか。
 これだけの能力の持ち主である。著者の今後の活躍にも大いに期待したい。