暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待

暴力の解剖学: 神経犯罪学への招待

 図書館で借りて読了。滅茶苦茶面白い。心拍数や薬指の長さと残虐さの相関、魚食と犯罪率の関係といった飲み屋で披露できそうなトリビアに近いものから、遺伝や脳疾患と犯罪の関連、乳幼児の時の栄養状態と将来の犯罪率の相関などかなり重大な知見まで、個々の中身の一つ一つがどれも素晴らしく興味深い。
 マンガンや鉛と犯罪率とのリンクなんて、私は全然知らんかったけど、公衆衛生上非常に重要かつもしきっちり対策したら、劇的で広範囲な効果が得られるかもしれない話もある。
 最後の2章はいくぶん哲学的(倫理学的)な内容で、人によっては強い反発を感じる部分もあるかもしれないが、著者自身の議論はバランス取れて入れしっかりしたものだろう。
 万人に読んでほしい中身だけど、特に本読む人インテリ寄りの連中こそ読むべき。そういう人は「なんとなくリベラル」でロンブローゾって名前聞くだけで拒否反応を示す人が多数派なんだろうと想像するが、自然科学のもたらす知見を踏まえないものはどんなものであれ空論に過ぎないと言っちゃっていいと思うわけです。しばらく前に紹介したピンカーの本や本書の中身を前提にして、暴力や法・刑罰へのスタンスを考えることこそ今後ますます必要になってくることは間違いないだろうし。
 ところで、日本でもちゃんと同趣旨の研究してる人いるのかね。学者だけでなく、高級官僚や政治家にも本書のような視点で政策形成してほしいものだ。