現代戦略論

現代戦略論

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 新刊で購入。昨年からメディアでの大活躍の著者による初単著。
 リアルタイムで見ていたニュースステーションでの熱い涙(ウクライナの少年の悲嘆に、レアルのモドリッチを引き合いに出して励ましながら「ルラジミール・プーチンを歴史の法廷に立たせなければならない」というコメントでの締めで、こちらまでもらい泣きしそうになったなぁ)からファンになった。テレビでは歯切れよく簡潔に分かりやすくコメントしてくれて、かつ素人にも分かりやすい解説をしてくれるのはありがたい。
 では本はどうかというと、こちらも明快かつカチッと理詰めで進む筆ぶりはテレビでのコメントと同じだった。専門的知識・予備知識がなくても十分に読める。
 特に前半は、経営学や組織論、計画法的な抽象度の高い話でもあるので、軍事・安全保障とある程度切り離して読むこともできるだろう(ポパーなど昔の科学哲学まで言及されているのには驚いた)。
「縦深」という言葉だけほぼ説明なしでポンと出てくるけど、字面と文脈でいわゆる武道などでいう「懐の深さ」みたいなものだというのは分かる。
 後半のもう少し具体的な日本の安全保障については、読んでいると細かい点はともかくもうこれしか良さそうな案ないんじゃないという気がしてくるくらい説得的だった。当たり前だけど本書でも何度も書かれている通り、何か軍事的な衝突が起こったら日本の方針は「現状維持」なんだよね。現在の安全保障状況への対応を考える際、政治的に左寄りの人々はそれを前提できないから浮世離れしたこと言い出しちゃうというのもあるのだろう(日本が外国を侵略する心配をする。そんなもんまともな大人なら支持するわけないじゃん。多くの日本国民や政治家がそう思ってない、外国を侵略したがっていると彼らは本気で思っているのだろうか……)。
 さらに著者がテレビで端的に言っていた明白な事実として、プーチンみたいなやつが戦争仕掛けてきたらそれを事前に止めることはほぼ不可能だということ。これはウクライナ侵略でもう証明された事実としてあらゆる考察の前提とするべきこととなった。「外交で戦争抑が大事。武力増強は緊張高めるだけ」というのは愚論だというのも同じだろう。犯罪抑止に力入れれば警察要らないと言うのと同じだというアナロジーでも明白過ぎる。
 本書のテーマではないので中心的なテーマではないものの言及されることとして、科学技術の水準の重要性と経済安全保障がある。そりゃ兵器を作るにも高い科学技術と工業基盤がないとダメなのは自明なわけで。本書のペアとしてそちらの本も誰かに書いてほしい。
 そして、科学・経済の日本での低迷は結局緊縮財政による経済疲弊が非常に大きな阻害要因なのは間違いないのだから、失われた30年が日本の安全保障にもいかに重大なダメージを与えたかとすべての人に認識して欲しい。
 一番理想的な道は、日本が自らの力でしっかりとした政策を考えて、それを一要素として日本も含めた国際社会が結束して台湾有事などの戦争が起こらない未来に行ければ良いのだが。「未来は変えられる」(あとがき)のだから。