新刊で購入。世界的にも稀有な切り口の美学入門書で、テーマ的にこれが欲しかったと私にドンピシャリの待望の新書。

 内容は手堅くまとまって、自然科学の知見なども紹介がありそつのないものになっている。ただ、オリジナル要素や議論の深みなどは(入門書だからやむを得ないとはいえ)あまりないのは少し寂しい。

 料理が芸術たりうるかは、ネタ本の一つ(確認してないけど多分コレ)にあったような他の芸術との比較がもう少し欲しかった。絵や音楽だけでなく、刺繍や洋服デザインなども含めて。後者が表象がない分どうしても芸術の中核にない感じがすることと、「(感情を)伝える」要素が少ないと典型的な芸術から距離があるように感じることは同じ事な気がする。

 あとは知識が味に与える影響についても、批判されることが多いいわゆる「情報を食べる」系の姿勢に対し、「経験の価値」と「対象の価値」を区分けして分析するのは完全に的を射ている感じがしなかった。料理(以外の芸術もそうだと思うが)経験の価値抜きで芸術を堪能することなんて可能なのだろうか。かなりの程度知的なバックグラウンドがないと価値が分からない(外国語の詩、現代音楽などなど)ものなどは経験の価値の要素は少な目とはいえ、白黒部屋育でったメアリー(もちろんフランク・ジャクソンのアレです)が初めて外界に出たときに得たものが何かあるように(私はあると思う)、経験なしで知識のみで料理の芸術性を味わうことは不可能だと思うんだけど、どうだろう。「情報を食っている」連中は、要は色ではなく味バージョンの(出来の悪い)メアリーなんじゃないかと。

 こういったもう少し細かい話は是非今後著者に展開してもらいたい。あっとは、文献表がとても役立ちそう。ここからいくつか拾って読んでみよう。

 ということで、全体的に没落する我が国で数少ない取り柄と思しきグルメ関連の文化へ寄与として価値あるものであるとともに、分かりやすい美学入門書であるのだからある意味1冊で2度美味しいかもしれない。