- 作者: 中島義道
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2011/05/28
- メディア: 単行本
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「いま」を基点にして、客観的世界の虚構性を暴くという壮大な話。
他者論や、デカルトのコギト、「私」と「いま」の関係など、個々の論点には色々突っ込めそうなところもあるが、基本的な方向性は正しいと思う。呼び方はどうあれ、「開闢」こそ全ての源だし、そのことの自覚は著者の言う「明るいニヒリズム」(=「悟り」?)に結びつくのは、自然な流れだろう(この流れについては、別の機会にでも、もう少し細かく論じて欲しい)。
ただ、開闢の根源性を主張するのに、客観的世界を完全に捨て去ってしまう必要性はない気がする。むしろ、客観的世界と(「いま」の)開闢を道連れにしてしまうと、かえって説得力が落ちてしまうような・・・。
本書の読み方としては、6の「私は死に、そして何も失わないだろう」で基本的な本書の内容はまとめられているので、読むなら前書きの次はそちらに飛んだほうが、全体の見通しが得られて読みやすいかもしれない。
今までの著作に見られた情念のようなものはほとんど感じられず、静謐な雰囲気が溢れる本。薄いけれども読み応え十分。是非再読してじっくり考えたい。大いにおすすめ。
最後に、従来の中島さんのエッセイファンが喜ぶ部分もないわけじゃないので、私が気に入った部分を引用。
飛行場の広大な待合室でくるくる忙しそうに立ち働く人々、買い物をする人々、ゲートに急ぐ人々、離陸時間まで椅子に深く腰を下ろして黙々と待つ人。ああ、このすべてはなくていい。いや、ないほうがいい。こうして今日一日を戦い抜いても、多分また明日という同じようにくたびれ果てる、あるいは退屈きわまりない日が続くだけなのだから。
いま、飛行している全世界の飛行機が、そして私の乗り組む飛行機をはじめこれから離陸する全世界の飛行機が墜落したらどんなにいいことだろう。(p.212)